物と言葉と二つの扉を開ける力:『小さなお茶会』と”鍵”をめぐって
※今回はマンガの話!NEWS的には余談も余談です。少プレまだ見れてないし…。
鍵ってイイですね。鍵はその物だけに留まらない、宿る余白が大きいモノだと思います。それだけでは成り立たない存在だからなのかな。
…とこんなことを考え出したのは、もちろん先日発売されたNEWSのアルバム『NEVERLAND』初回盤に特典として鍵がついていたから。
特典を鍵にしたのは増田さんの提案がきっかけとのこと。”鍵”について、増田さんは「その鍵は何かを閉じるものでもあるし、開けるものでもある。鍵でみんながつながっていくし・・・。」*1、加藤さんは「鍵って、いろんな意味を持たせられるじゃないですか。たとえば何かを縛るような、契約のような印象もあるし、今回のようにどこかへの入り口っていうことにも出来る。その中で、どうやったらNEWSっぽいかな、みたいなことを話しながら考えていったんです。」*2 等々と語っています。ほんとやるなぁ。(なぜ上から)
さて、鍵を手にした時に思い出したマンガがありました。『小さなお茶会』というマンガです。
こちらのマンガは1回数ページの読みきり短編集といった形式。思い出したのはその中の一つのお話です。改めてこの話を読み返して、”鍵”という存在がますます愛おしくなったのでちょっと記録しておきたいと思います。
ちなみに私が小学生から中学生になる頃に大好きだったマンガなので*3、 なにより自分がすっごく懐かしくて、よく思い出せたな!と驚き、またうれしくなりました。その気持ちも大きな動機。読み返してみてやっぱり良いマンガだな!としみじみしました。今の小中学生にもすすめたい。
でもね、ガチの少女マンガなんですよー。これは恥ずかしい照れる。私の心のやらかい場所を全開で行きたいと思います☆
【目次】
『小さなお茶会』について
概要
まずは2004年に出版された完全版*4 の帯のテキスト(抜粋)をご紹介します。
◆80年代初頭の少女漫画シーンにデビューした猫の夫婦「ぷりん」と「もっぷ」。2匹が紡ぎだした至宝のメルヘンが、今、時を越えて蘇る。
◆「小さなお茶会」は人々を優しく魅了し、癒し、そして、ふと戸惑わせる。今、読み返すべき時がみちている。読み伝えるべき時に至っている。
芋づる式に思い出したのですが、『小さなお茶会』の2人が使用されたこんな歌もありました。懐かしすぎる…。ただし、アニメ作品になったことはないので、キャラクターとしてこの歌に使用されたということかと。(絵はマンガの方がかわいい!)
作者:猫十字社
1978~1987年に、雑誌『花とゆめ』(白泉社)で連載していたそう。連載開始時は『黒のもんもん組』というギャグマンガと平行して描いており、そちらの作品はギャグマンガとして画期的だったんだとか。*5 こんな少女世界の凝縮系のような作品とギャグの最先端を行くような作品を平行していたなんて、おもしろい人です。*6
形式:基本的には平均6ページくらい/1回の読みきり構成。4コママンガ形式でスタートし、連載を経るごとに徐々にコマ構成が変化したり、数回分連続する話が描かれたりもしていきます。
内容:もっぷとぷりんという猫の夫婦がメインの登場猫物。人間以外の生き物達が言葉を話し生活をする世界「はなのめ村」での2人の暮らしが描かれます。
主成分はメルヘン系少女マンガ。でも小学生から大人まで読める今で言う”大人の絵本”的なマンガと言えるのではないかと思います。*7 メルヘンの世界なので時代設定に違和感があるということもなく、一個気になるとすれば「ぷりん奥さん」とかって呼び方ぐらい。もし少女マンガアレルギーがなかったら(ちょっと照れながらも)読めるはず!
形式だけでなく、内容もけっこう変化する。かわいらしい2人のメルヘンな生活を描く初期から、徐々に過去未来異次元を行き来するような精神世界へも。*8
”鍵”のお話
説明が長くなりましたが、”鍵”を扱うお話のことを。完全版では1巻P72~75にあたるたった4ページのお話です。まだまだ2人のかわいい生活を描いている頃。でもちょっと精神世界の予兆が出ているかもしれないお話です。
まず扉絵。やっぱりちょっと照れる雰囲気/// この扉絵に抵抗を感じなかったら、たぶん読める!
プラモデルをつくっているもっぷ。見つからない部品があって探しているうちに、一つの見覚えのない鍵を見つけます。
(下記、会話はもっぷ:青、ぷりん:ピンク。改行は半角スペースにしています。)
それじゃ ぼくの鍵だ
これは ひょっとしたら ものすごく 大切な鍵です
どうして わかるの?
でも その鍵は 「大切だ」っていう ことばの扉を ひらいたんでしょ?
それは 天性の かん!
ふうん
でも よく考えてみれば 大切じゃない鍵って あんまり ないんじゃない?
(鍵は物と言葉の二つの扉を開ける力を持っている、って…。いきなり比喩的表現をぶっこんで来るもっぷ。)
家中の鍵穴で試してみても何の鍵かわからないもっぷ。ぷりんからお誘いを受け、休憩がてらのお茶をしながら、ぶつくさ言います。
なんの鍵なのか わかんない鍵なんて ぜんぜん 役にたたないよね ちぇっ ちぇっ
うふふ
じゃあ その鍵 あたらしく 「忘れる」って ことばの鍵に 任命してあげたら?
そしたら 役に立たない 鍵じゃなくなるでしょ
その鍵みるたび 「忘れちゃいけない」って 思い出すわ
「忘れちゃいけない」
あっ 思い出した! ぼく プラモデルの部品 捜してたんだ!
探し物の途中だったことを思い出してぐったりするもっぷ。そして最後は
こんなやりとりをして笑い合う二人。
締めの会話、ほのぼのしていると見せかけて渋すぎやしませんか?結局何を開ける鍵なのかわからないままに、その存在を認めている。”鍵”に宿る余白を絶妙に描いた話だと再確認。
そして、お話としてのまとまりがすごい。ちゃんと落ちてる。4ページだからこその無駄のなさ。詩のようなマンガだなと。*13
”NEVERLANDへの鍵”は元からもっぷの言う「ことばの扉」を開けるためだけに作られていると言えそうです。イイね!
ついでに『小さなお茶会』の魅力を、少し
『小さなお茶会』で描かれるのは、たわいもない話と言えば、そう。でも、たわいもない話の中にあるものの豊かさときたら。やさしく考えさせられるお話がたーーーくさんつまっている。お説教じゃないし、皮肉もなく毒もない、子どもでも安心して読めるマンガです。
誰でも通ったことがあるような、ちょっとしたひっかかりや心情によりそった話を、部分的に抜粋してご紹介。タイトルは便宜的につけていますので、正式なものではありません。(台詞の改行部分もくっつけています。)
時間の話(『小さなお茶会・完全版』1巻P146~149)
砂時計を見ながら考え事をしているもっぷ。ぷりんが何を考えているのか問うと…
ふえてく方もへってく方も時間だと思うんだけど
でもぼくはへっていく方のような気がするんだ
へってくのなんとなくやだわ
猫(ひと)に与えられた時間はもうきまってるよね
だからこれからやってくる時間は砂がへってからになってゆく方だと思うんだ
で 砂がふえてく方はこれまで過ごしてきた時間だと思うけど
ぼくは下の砂がふえるのがうれしいよ
どうして?
だってこれまで過ごしてきた時間のおみやげはとても素晴らしかったからね
等々会話を繰り広げていく2人…
過ぎちゃった時間はどこへいくのかしらね
今きている時間はどこからきたのかしら
小さい頃と同じ歩幅でやってきてるのかしら?
どうも違うように思えるんだけど
むずかしいねー
会話は続き…ほのぼのユーモアがある落ちで終了。
ぶどうの木の話(『小さなお茶会・完全版』2巻P58~63)
ぐたっと寝転がって落ち込んでいるぷりん。もっぷが理由を聞くと、ぷりんの祖母から電話があって、小さい頃ぷりんが好きだったぶどうの木にたちの悪い虫がついてしかたがないから切ってしまったと伝えられたとのことで…
ぶどうの木が泣いているのが見えるような気がするの
いっしょに泣いてあげたいわ
こういうのは・・・誰が悪いのでもないわ・・・
ただほんとうの「悲しい」だけがころがってるのよ
「悲しい」のがどこかへころがっていくのを待つしかないわ
「悲しい」がころがっていくのを待つぷりんに寄り添うもっぷが描かれます。
時間について考えたり、悲しみを「」でくくって語ってみたり。その他にも、全てを学問にささげた数学の塔の住人の決意と揺らぐ心の話、詩人になったもっぷと登山家になった友人のくろんが互いの職業を目指すきっかけになった思い出の話等々、魅力的な話に満ちています。個人的には職業観に影響を受けている気がする。 他にもざっと思い出せるだけでも、コンプレックス、生と死を扱った話など…。今読み返したら新たな発見がありそう。
視覚表現におけるおもしろさ
絵の効果もすごい。かわいいだけでなく、おもしろい。
上記の時間とぶどうの木のお話のコマ割りも4コマを逸脱するような表現になっています。4コマという型があるから、かえって遊べるんですかね。さらっと読めてしまうので、今回見返すまでこんなにうまく作られているとは気がつかなかった!
また、もっぷが詩を創る話では、言葉を造形材料のように扱う描写や鳥や魚のように狩る描写があったり。メタファー的(?)な表現も見られます。下記にちょっと抜粋。
(この後に続く「間引いたり つなぎたしたり」も絵で表現。)
(詩をつくる時の言葉を狩るイメージをそのまま狩りとして表現。鳥に色んな言葉をのせて描いている。)
ジャングルには良い言葉が見つからなかったので、海に言葉狩りに向かうと…
(新しい漁場の海に出て、一気にいきいきする言葉が魚として描かれる。端っこきれいに出なくて申し訳ない。)
缶詰状態で仕事を終えて、ぷりんのいる部屋に…
扉の向こうを、もっぷのイメージの中の海として描いているところがしゃれている。「ただいまあ」の吹き出しを点線にして、心の中で思っているという表現も。
心象風景が現実の風景に重なってくるような表現方法というのは、少女マンガの得意分野で、個人的にはとても好きなところです。
かと思えば、メルヘンの襲来
こうした繊細な話があるかと思えば、メルヘン!ファンタジー!と叫びたいようなお話もざくざく。目当ての星を見つけると光り出す星座盤、年に1度花の種を蒔く気球、1日だけ現れるサーカス団、ある時期だけ乾杯のたびに生まれる金平糖のような砂糖菓子、霧とともに移動する不思議な村の霧からできたチーズ、ランプを通して星と話ができるお祭り、とかとかとかとか。中盤くらいまでしかピックアップしていませんが、この充実のラインナップ。
くっはー!照れるっ!!私の中の少女魂が揺さぶられるっ!!!
もっと知りたい方に
もうちょっと客観的に知りたいという方は、2004年にNHKBSの『BSマンガ夜話』でも取り上げられていたようですので、よう〇べで探してみてくださいませ。(概要はほぼそこでの情報から引っぱらせていただきました。)2004年てこんなだった?ってくらいに時代を感じるけどw やっぱり評価される作品なんだなーとわかって、なんだかうれしい。キャラクターの成長が織り込まれていること、猫というメタファーとそれが流行した時代背景、個人の精神世界の中で一番ミニマムな関係への逃避に対するある種の批判と『新世紀エヴァンゲリオン』へのつながり、唯一のウソは二人で完結する世界ということ、『小さなお茶会』だけでなく『自虐の詩』作:業田 良家を読んで補完するのがおススメ、といった話がおもしろかったです。ピックアップした話がけっこうかぶってしまった…ま、いいか。
完全版は全4巻。猫十字社・公式ホームページ『猫つぐら島』
おまけ:オノ・ヨーコの鍵
鍵つながりでもう一つ。tomiokoyamagallery.com
そういえば見たことあった…と思い出したオノ・ヨーコさんによる”鍵”をモチーフにした作品『Glass Keys to Open the Skies』。邦題は『空を開けるためのガラスの鍵』。作品名の通り、ガラスでできた鍵です。
私は「YES オノ・ヨーコ」展*20 で見たのですが、イメージの余白がある、とても詩的な展覧会だった記憶があります。その展覧会は2004年。上記サイトの小山登美夫ギャラリーでの展示作品は2016年制作のようですし、タイトルも『KEYS TO OPEN THE SKIES』。個人的に見た作品とは異なるかもしれないのですが、参考まで。(見たのはすりガラスじゃなかった…かもしれない←)
そして、なぜか偶然にも4本の鍵。4本である理由についての質問にオノ・ヨーコさんが答えている情報*21 があったので下記に。
Q:「空を開けるためのガラスの鍵」と言う作品が大好きなのですが、鍵が4本なのは何故なのでしょう?人は五感全部を使わないと空を開けられないのではないかと思うので5本は必要だと考えるのですが。
A:4というナンバーはとてもパワフルな数字ですが、地上では問題がある数字です。だから空を開けるのに適しているナンバーです。だからガラスの鍵は、地上の物質世界ではなく空の精神世界を開ける鍵なのです。ヨーコ
…ほほう。(むむ?パワフルな数字とは?…ちょっと置いとく←)
精神世界、つまりはイメージの中で使用する鍵。強度を放棄したもろく壊れやすい繊細な鍵の用途はやはり特別なもの。溶けてしまいそうな存在感が印象的です。
”NEVERLANDへの鍵”と同じように、いわば「ことばの扉」を開けるためだけに作られた鍵。オノ・ヨーコさんの作家として在り方が力強いメッセージを発している気がします。
最後に、改めて”NEVERLANDへの鍵”のこと
”NEVERLANDへの鍵”は、期間限定で実際に開けられる扉があったものの、具体的な物を開く鍵ではなく、イメージの中で何かを開く鍵。今後、何の扉を開く鍵にするのかは持ち主にゆだねられていて。人によっては、NEWSを大切に思う気持ちをとじこめた”鍵”になるかもしれないし、NEVERLANDライブに行った記憶を引き出す”鍵”になるかもしれないし、NEWSを好きな他の多くの人達とつながる”鍵”になるかもしれない。他にもきっともっと色々なものを開く鍵になりそうです。同じ人でも、年とともに変化していくってこともあるだろうし。*22
というわけで、結局は、鍵を見ながらでれでれとあれこれ考えている、というご報告でした。
*1:『月間TVnavi』首都圏版4月号2017/2/27→3/31、2017年4月1日、第15巻第4号通巻195号、産経新聞出版、テキスト:落合佑佳里、p19
*2:『月間ソングス』2017年4月15日、第15巻第4号(通巻174号)、株式会社ドレミ楽譜出版社、テキスト:山田邦子、p123
*3:でも、その頃に連載していた訳ではないよ…って一応言っとく。
*4:猫十字社『小さなお茶会・完全版』(2004年、扶桑社)
*6:ただし私は『黒のもんもん組』の印象があまりない…。読んだ記憶はあるのですが、『黒のもんもん組』影響を受けた作品群を先に摂取してしまったためか、印象が薄れてしまったようです。
*7:私自身は流行の”大人の絵本”についてはゆるっと懐疑的ですけども。
*8:マンガは一人の作家の力が強いからか、連載となるとスタートと最後がけっこう激しく変化することがありますよね。そこがマンガのおもしろさだとも思っているので、個人的にはそうした変化を見るのも好き。アニメ等の大勢の人が関わるような作り方の作品にはあまり見られない変化…って書こうとしたら、『新世紀エヴァンゲリオン』があった!あれはすごかったw 『小さなお茶会』も、エヴァの最後2話の溶け具合くらい抽象的な精神世界、自問自答的な世界に最後の方は入っていきますw
*9:猫十字社『小さなお茶会・完全版』1巻(扶桑社、2004年)P72 部分
*10:同上、P73 部分
*11:同上、P74 部分
*12:同上、P75 部分
*13:そう言えば、もっぷの職業は詩猫(しじん)!その設定もほのぼのしているような、渋いような…。もっぷが書いた詩も話の中に出てきますが、小学生には読み解けないようなもの。「きみ 一本の勇気のように ぼくの眠りの頂上にたつ避雷針」とかだもの。でもなんかステキなことを言っていることはわかった。
*14:猫十字社『小さなお茶会・完全版』1巻(扶桑社、2004年)P147 部分
*15:猫十字社『小さなお茶会・完全版』2巻(扶桑社、2004年)P62 部分
*16:猫十字社『小さなお茶会・完全版』1巻(扶桑社、2004年)P228 部分
*17:同上、P230 部分
*18:同上、P231 部分
*19:同上、P232 部分
*20:東京都現代美術館 2004年 4月17日~6月27日、他
*21:「空を開けるためのガラスの鍵」と言う作品が大好きなのですが、鍵が4本なのは何故なのでしょう?人は五感全部を使わないと空を開けられないのではないかと思うので5本は必要だと考えるのですが。 - オノ・ヨーコ Q&A
*22:NEVERLANDの鍵が大切に思えることを切々と書いていらっしゃるブログが、すっごく素敵だった。リンクさせていただきたかったのですが、私の社交性の関係であきらめました←。