光について:2017年のアイドルと(Negicco編)
2017年の備忘録「光について」シリーズ。
あと2回は偶然にも2003年結成で今年15周年を迎えるの2つのアイドルグループについて。
Negiccoの『愛は光』
女性アイドルの中だったら、2017年はこの曲を1番聴いたかもしれない。そしてこれからも折に触れて聴き続けていきそうな気がしています。
Negiccoについては→http://negicco.net/profile/
2003年7月結成。15周年目に突入した新潟県出身在住の3人組アイドルです。
この並び…すごい。これでインディーズ。
そして15周年の幕開けを飾ったのが、2011年にT-Palette Recordsへ移籍した後のベストアルバム『Negicco 2011~2017 -BEST- 2』。その1曲目が、新曲『愛は光』となっています。
Negiccoのことは、きちんと知らなかったし、今も詳しくはないです。曲作りにたくさんのミュージシャンが参加していることはかろうじて知っていて、土岐麻子さんが関わった曲を聴きかじったことなどはあるのだけど。
だから『愛は光』についても、Negiccoの歴史を知っているから響いたということではなく、ものすごく単純に、曲としての魅力にやられました。
この曲のクレジットは、作詞・作曲:堀込高樹 編曲:KIRINJI
そう、KIRINJIの堀込高樹さんが作詞・作曲なのです。この曲を聴くきっかけはココでした。*2
そんな人間に、この曲がどんな風に響いたのか、ちょっとメモっておきます。(新しいことは何も言ってないけど汗)
月と太陽の例えが響く
曲を聴くとすぐ、アイドル目線で歌う周囲の人への感謝ソングだとわかります。15周年という節目のテーマとしては納得。元々は「門出をテーマにした曲」を*3、という希望があったとか。
だけど、一筋縄じゃいかないのがさすがの堀込兄!
ああ、わたしが月なら太陽はあなたよ
光は愛、愛は光ね
それこそが本当のことです
ああ、わたしだって太陽
あなたを照らしたい
授かった愛を輝きに変えよう
惜しむことなく
この曲を聴いた私の心理状況について書きますと、「わたしが月なら太陽はあなたよ」に、まず「え!?」となりました。輝いているのはもちろんアイドルで、アイドルからは光のおこぼれをもらっている(言い方)くらいの感覚なもので。
で、驚きの後には、ちょっとファンにリップサービスしすぎじゃない?感謝ソングだからって…ねぇ、と卑屈さを発揮(笑)
でも、続く「光は愛、愛は光ね それこそが本当のことです」でめっちゃ念を押してくるものだから、そんなに言ってくれるなら…そうしておきましょうか、とほだされる。
そして、さらにくる「わたしだって太陽 あなたを照らしたい 授かった愛を輝きに変えよう 惜しむことなく」に、感無量(誰?)
アイドルが自分を「太陽」と例えるまでの展開が本当にうまいです。最初はアイドルが光を受ける側であるという意外性のあるところから入り、愛=光という方式を成り立たせてから、アイドルが光を発する側になる。最終的には太陽=唯一(アイドル)対 照らされる存在=不特定多数(ファン)。つまりアイドルとファンの関係に非対称性が生まれる。だけど、最初に自分を「月」に例えているので嫌味でもないし、1対1の関係の延長のようにも感じられる。アイドルを自分だけの「月」であり「太陽」と捉えることもできるし(実際、個人的視点においてはそう捉えることも可能)、「太陽の光を独り占めすることはできないし、それは望まない。むしろもっともっと他の人にも届くように輝いてほしい」という想いにもフィット。揺れ動くファン心理にはまる表現なんだろうと思います。
今思い出した唐突な話なのですが、NHKでやっている『精霊の守人-最終章-』ってご覧になってますか?その第5回『槍舞い』でのエピソードをふと思い出しました。超はしょって説明しますと、主人公のバルサは、訳あって父親の友人であるジグロに育ててもらうのですが、そのことがジグロと周囲の人の人生を不幸にしてしまったのではないかという想いを抱えています。だけど亡くなって霊的存在になったジグロとの対話の中で「私たちを不幸にするものがあるとするならば、それはお前の心一つだ。お前の心一つが、私たちを幸せにも不幸にもする。」と言われる。バルサが幸せであれば報われるんだって。バルサにとっては重いだろうし、勝手で理不尽だと受け止められてもしょうがない言葉。でもやっぱり大いなる愛だと思うわけです。バルサはその言葉を受け止めました。
これは”親子”関係のエピソードですが、このジグロの気持ちにはファンの気持ちと重なる部分があるのではないかという気がしました。「授かった愛を輝きに変えよう」というアイドルの「心一つ」に、なんだかんだファンは報われるのだと思います。(人によるし、時と場合にもよるだろうけど…。)
洗練された美しい流れ。この流れだからくどくならず、白々しくなってしまうこともないのかなぁ。
ダイヤモンドも
ガラスのビーズも
光があるから輝くの きっと
というのも、光(=愛)を送らなくちゃという気持ちにさせられます。アイドルに限らず、どんなにダイヤモンド級の逸材と言われていてもなかなか報われない人がいることを、たぶん人は知っている。特に15周年をむかえるNegiccoを見てきたようなファンの人なら、その間に消えていった可能性をたくさん見ているはずだから。美しい例えの中にある説得力が半端ない。美しいけれどけっこうシビアな詞だとも思います。
燃え尽きるその時まで
最後のこの詞には賛否あるのかもしれませんが、この切なさと刹那感、私は好きです。ここにもシビアさがある。きっと「永遠に」って言い切ってしまいたいだろうけど。
アイドルとしての活動が終わっても人生は続いていくのだから「燃え尽きる」という表現はどうなのか、といった意見も見ました。その通りだと思う。でもアイドルの、アイドルとしての夢、ファンも一緒に見たその夢の終わりを「燃え尽きる」と表現しているのであって、それ以上でも以下でもないのかなと思います。
ファンは、このアイドルとしての決意表明に胸熱くなり、限られた時だからこそ大事にしたいと気持ちを新たにしてしまうんでしょうね。
なお、2番の「でもペンライトで足元を照らして 寄り添ってくれる人がいる」はスタッフの方々をイメージしているそうです。*4 感謝ソングとして死角なし!(あと入れるならば、家族とか?)
具体性と抽象性のバランスが響く
「サイリウム」「ペンライト」といったアイドルならではの具体的な言葉が出てきます。けれど「サイリウム」は「ひしめきあう星の群れ」に、「ペンライト」は「足元を照らして」「寄り添ってくれる人」という抽象的なイメージにすぐ回収される。ただの羅列ではなくて意味のある使われ方になっています。アイドルワードがこんなに詩的になるなんて。
それに、他の部分はかなり抽象的なので、適度な具体性がスパイスとして作用して、全体が引き締まっています。抽象的過ぎると思わせぶりでくどくなったりふわっとして弱くなる。具体的過ぎるとイメージの幅がなくなって汎用性が低くなる。
Negiccoに感情移入して聴くことはもちろんですが、抽象的に捉えて聴くこともできる絶妙なラインだと思いました。
「サイリウム」「ピンライト」「ペンライト」
「月」「太陽」「銀河」「星の群れ」
「ダイヤモンド」「ガラスのビーズ」「真珠」
「輝く」「照らす」⇔「闇」「燃え尽きる」
こんなにキラキラした言葉が並んでいながら、しっとりすっと入ってくる曲になっていることにも驚きます。
歌い方も響く
とてもナチュラルに感じました。飾り気のない雰囲気、気合を感じさせ過ぎない発声がこの曲にはマッチしているなぁと。歌うべき人が歌っているので、そういう感覚になるのかもしれません。
堀込高樹さんのアイドル独特のパート分けを考えるのが大変だったという話などもおもしろかったです。色々こめてるんだなーってわかる。↓
イントロとアウトロにも響く
ちなみに前奏を聴いて『おもひでぽろぽろ』の『愛は花、君はその種子』*5 を思い出しました。曲名やMVの畑の光景とリンクしたところもあるのかも。前奏で心が整っていく。そしてアウトロ(と言うのです?)、好きです。ファンタジック感と儚さと。夢の中に消えてゆくようなフェイドアウト。演奏はKIRINJI!*6
ちなみに『愛は光』は『アイドル楽曲大賞2017』のインディーズ/地方アイドル楽曲部門の5位だそうです。
第6回アイドル楽曲大賞2017>> インディーズ/地方アイドル楽曲部門
Negiccoをよく知らない私のような人間にも響く曲。MVも良い。
女性アイドルのライブはまだPerfumeをかじったことがあるくらい。2017年はバックバンドが生演奏という気になるライブがいくつかあったのですけど、結局行けずじまいでした。2018年は実現してみたいです。
*2:堀込高樹さんはSMAPにも曲提供していたりもするのですよね。SMAPが解散してしまってから知りました。
*3:堀込高樹「2014年に『進水式』という曲を書いたんですけど、そういう門出をテーマにした曲はどうかみたいな話をいただいて。あとは大雑把ですけど、軽やかでリズミカルな曲が多い印象があったから、ちょっと落ち着いた曲を書いてもいいかなっていう、そういうアプローチでした。」Negicco×KIRINJI鼎談 日本ポピュラー音楽シーンの精鋭から絶大な愛を注がれる理由とは? | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
*4:堀込「1番はファンの人に。そして2番はあの、ステージ袖って真っ暗なんですよ。そうすると転ばないようにスタッフが……。」千ヶ崎「あっ、足元を照らしてくれますよね。」堀込「そうやって日々支えくれている人に向けた歌詞にしてみました。」Negicco×KIRINJI鼎談 日本ポピュラー音楽シーンの精鋭から絶大な愛を注がれる理由とは? | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
*5:原曲はベット・ミドラー『The Rose』。2017年末の紅白歌合戦で島津亜矢さんが歌っていましたね。
*6:堀込高樹「落ち着いた曲なのであまりキラキラさせたくなかったのと、KIRINJIとして生演奏がしたかったんですよね。お三方が歌うことを考えると、ナチュラルなサウンドが合う気がしたし。」Negicco×KIRINJI鼎談 日本ポピュラー音楽シーンの精鋭から絶大な愛を注がれる理由とは? | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス