生きることをやさしく肯定する:『LPS』収録曲の相乗作用
やることが終わってないんだ…。だけどガマンできない!ってことで書きます。ダメな大人也。
NEWSのシングル『LPS』。表題曲の『LPS』は「”愛・平和・笑顔”をテーマにした本作はNEWS史上最も”ピース”な一曲」「等身大で暖かな応援歌」と宣伝文句にありました。『U R not alone』を経たから歌える曲だと。
確かに「応援歌」であると思った。「”ピース”な一曲」でもある。それは間違いない。
けれどなんとなく落ちきらないものを感じていました。この曲のテーマ”愛・平和・笑顔”が意味するのはなんなのか?と。確かに詞にはある。けれど、なんとなく漠然としているなぁって。
異を唱えているんじゃないんです。ただ、言葉だけだとずいぶん大きなテーマ。それと「等身大」との重なり具合が消化しきれていなかったのかもしれません。
それで、『LPS』は何を応援しているんだろうって考えました。
『LPS』が応援していることって、少なくとも、何かの勝負に勝つこと、夢をかなえること、両想いになること等々、「自分が得ていない何かをGETしろ」という方向性の”応援”ではないように感じます。
言葉出せなくたって
想い届くんだなって
カタチは悪くたって
自分らしくいようって
努力至上主義の中ではこうした表現にはならないはず。
そうして思い至ったのが、『LPS』が応援しているのは「生きること」そのものじゃないかってことでした。
心帰る場所なんてなくて
もがくばかりで疲れ果てた道
それでも希望は胸に
”くそったっれ”はゴミ箱に
大丈夫。なんとかなるから
「希望をもって生きること」。これは「夢をかなえようと生きること」とは似ていて非なるものだと思います。
ここでちょっと一人語り。人がどうやって生きていくのかというふわっとした話。
「夢をかなえようと生きていく」、それは自分があきらめさえしなければ可能だと思います。あるいは、夢のスケールダウンしていけば、身に程よい夢を持てば、いつかはと思いながらずっと生きていくこともできる。実は私はそういうタイプ。消費期限のない漠とした”夢”だから、環境に甘えているんですね。
でも、そうしたことだってできなくなることもある。
私がずっと印象に残っている言葉に2012年の24時間TVで松本潤さんが指揮者として参加した石巻好文館高等学校吹奏楽部のたしか部長さんが松本さんに読み上げた手紙の一説があります。
「この先に何が待っているかはわからないけれど、未来を信じて、私たちは故郷の復興とともに進んでいきます。」*1
私が衝撃を受けたのは「この先に何が待っているかはわからないけれど」という言葉でした。(私は「これから何があるかはわからないけど」と覚えていたけど。)人が”夢”を語るとき、たいていは不確定要素は度外視している。自分が努力すればかなうんだっていう前提のようなものの上に立って語ります。だけど自分が想定していなかったことが起こることを、彼女たちは歳若くして体験させられた。それが、この手紙に端的に現れていると思いました。
”夢”をずっと変えずに生きていける人もいるだろうけれど、どうしても変えなければいけなくなった人もいるかもしれない。そして思い描いていた”夢”を奪われた人だって。
災害、事故、事件…。そんな大変なことでなくたって、自分を取り巻く状況が一変することはあります。
そうした場合、何が何でも元の”夢”に戻らないといけないの?って思うのです。そうでなければ、自分は”夢”をあきらめたんだって思いながら生きなければならないの?”はずれ”の人生だったって思わなければならないの?*2
そんなことは絶対にない。生きていることは肯定されるべき。
「未来を信じて」「それでも希望は胸に」。
そして”夢”は、きっと、いずれ、必要なときが来たら、新しく描かれる。それはあきらめじゃなく、堕落でもなく、消極的なことでもなんでもなく、とても力強いことだと思うのです。
「希望をもって生きること」と「夢をかなえようと生きること」とのニュアンスの説明になっているかわからないけど。自分に主軸があるか、”夢”に主軸があるかの違い、なのかな。※『いつでも夢を』のような”夢”は”希望”と同義であると思います。
でも、この曲は力強く高らかに宣言するようなタイプではないですよね。ものすごい大きな困難にぶち当たったときの曲でもない。
もっと日常に、ささやかに、やさしく、寄り添っている。
この曲に出てくる「世界中」も、一般的に「世界平和」というような言葉にあるイメージとは異なるように思えます。そうじゃなくて、生きていることで感じられる「世界」、生きることそのものに対する祝福のような。『LPS』において”愛・平和・笑顔”が意味するのは、人が人らしく生きること。そんな気がしています。
ころんでしまったときも、足を休めているときも、遠回りしているときも、少し後戻りしているようなときも、生きることを肯定する。そんなことを感じられる応援歌を阪神淡路大震災の起こった日に発売したNEWS制作陣もコンセプチュアルです。
そういう意味では『U R not alone』を経たからこその、存在自体の肯定に至ったということになるのかもしれません。テーマは大きいけれど、足元の曲。
実は、最後に聴いた『madoromi』によって、『LPS』の形が私の中でぐっと立ち上がってきました。『madoromi』を聴いた後、改めて『LPS』に収められている曲すべてが「生きることをやさしく肯定している」と感じた。そんな視点で、ちょいと感想を書いておきたいと思います。
『LPS』
作詞はヒロイズムさんとHacchin' Mayaさん。Hacchin' MayaさんってNEWS曲をいくつも手がけておられますが、『ポコポンペコーリャ』もなんですね!肯定感が重なる気がします。実は『ポコポンペコーリャ』の世界感大好きなんでえへえへしました。*3
「Wa la la la」が主で、NEWSメンバーが歌う部分が( )内なのすごくないですか?「Wa la la la」を観覧の方々が歌うのを見て、すんごいぐっときてしまいました。あの空間、超ピースフル。
個人的には増田さんの「”くそったれ”はゴミ箱に」がハイライト。最後がすっと終わるのも良い。
「生きることの肯定」という視点において、外せないのがMV。『LPS』のMVはナチュラル感がすごい。加藤さん→田向潤監督への流れはどんなものだったのだろう?
まず、朝日で撮るって天才じゃない!?って思いました。朝日は希望。本当に良く晴れた(笑)
それと、海辺を歩くワンカット撮影。*4 屋外で、自然光で、隠れるものがない状態での。その効果で、一人ひとりの空気感や、4人で一緒にいるときの雰囲気が感じられる気がします。それが自然体や等身大といった曲のテーマを、視覚的にも伝わるものにしている。
『NEWSICAL』の贈り物とつながるオブジェを形作っているのは、元々は”何か”だった物たち。いったん解体され、バラバラになり、かけらになった物が再構築されて、新たな形になって命を得る。そんなイメージがわきます。しかもハートの形。「心帰る」のは建物とかの具体的な”場所”じゃなくって、気持ちのやり取りや記憶といった”ハート”なのかな。
なんでCMとかになっていないんだろう?保険のCMとかに使おう?
『NEWSICAL』
『LPS』の希望をよりかわいらしく楽しく。
あふれる幸福感が、もうそれで肯定。「だって X'mas time」だし。それでもっていってしまえる幸福がクリスマスにはある。「生きていると幸せ喜び悲しみ 色んなものが降りそそぐ 明日への希望、それこそが今日の喜び X'masはそんな日だ」。加藤さんが『NEWSICAL』のストーリー制作を話し合う際に、ホワイトボードに掲げられていた「軸となるテーマ」。これだな、って思います。
色々言いたいところなんだけど、別脳使わないとならないので、とりあえずハロウィーンターンの『BYAKUYA』感を。『BYAKUYA』の演出の物語っぽさが『NEWSICAL』企画の呼び水になったりしていそう。
『チェリッシュ -Represent NEWS Mix-』と『真冬のナガレボシ -Represent NEWS Mix-』
聴く前に勢いにまかせて書きましたが、こうして『LPS』の収録曲にはさんで聴くと、改めてはまり具合がなんとも言えない。
『LPS』全体で聴く前は、この2曲から感じるあたたかさを「感情の深み、複雑さ」と表現しました。でも、こうして通して聴いてみるとそれだけじゃない。根本的に人に対する気持ちがあたたかいんだなぁと。しつこくて申し訳ないけど、つまりは存在の肯定。両思いの人にも別の道を選んだ人にも、そして自分自身に対しても。やさしい肯定感がしみます。
歌い方には自然体な雰囲気が増しているような気がしました。ぬけ感のようなものが。『チェリッシュ』は手越くんの優しい声にキャパオーバーしそう。声が流れるように混ざり合うのも心地よい。『真冬のナガレボシ』すごく良い曲ですね。『チェリッシュ』にしか反応していなかったのを反省する。全体の勢いのようなメリハリのようなものがすっきりしたように思いました。以前の曲には丁寧さを感じる。だから、以前の曲では君への想いをまだ忘れられずにいる雰囲気を、今回の曲では幸福な思い出へと昇華していっている雰囲気をより感じるような気もします。
ずっと歌ってきたからこその変化でもあるのだろうな。
『madoromi』
この曲が『LPS』というシングルをより濃く性格付けていると感じました。
君を好きなこと
また会えるまで 忘れないで
僕が隣にいなくても きみはきみのままで
君と出会えた日は
いつになっても宝物さ
頬をぬらした涙は
君の明日を咲かせるだろう
圧倒的な肯定につつまれる。
一緒にいてもいなくても、記憶の中でも、いつまでも。
「空に浮かべた船」「見えない場所」といった、そこはかとない永遠の別れの香りも、切なさと共に、それでも生きて会えたことの幸福を呼び起こします。
そして、この曲が一人ひとりの声を届けることに徹していることも一つの強いメッセージ。個々がいきている、一人ひとりとして大切にされている、って言うとありきたりな表現になってしまうけれど。NEWSならではの表現として定着してきているのですね。
1番での増田さんのグッバイは2回ともファルセットで儚くやさしく、そして2番の手越くんのところは1回目はファルセット気味で2回目はストレートにそのままで力強く行くところ、本当に好きです。小山さんの歌唱部分は、そんなこと言わないで…って思うほど切ない。*5 加藤さんの歌声には安心感がある。
作詞・作曲のKacoさんが入れてくれていた歌声はどんなだったんだろう。Kacoさんの声も素敵だから聴いてみたくなりました。最後の「咲かせるだろう」だけ音が異なるのもすごく良い。*6
アレンジでは、1番の「きみはきみのままで」の間にはピアノが何度か入るのに対し、2番の同じ部分「照らす明かりになる」では途中のピアノが省かれていて、弦楽器(だよね?)でのじわじわとためて集約感が増していくところが好き。最初、1番と2番が違って聴こえるのが不思議でした。*7 ちなみに「きみはきみのままで」だけ「君」じゃないの、なぜなのでしょうね。なんとなくセリフっぽい定型句的印象が増すような…。色々に受け取れそうな気がします。
詞とメロディ、繊細なアレンジ、NEWSの歌声があわさって、全体から何かがあふれ出している。
『madoromi』には応援という言葉より、支えてくれるという言葉が合いそう。私には「応援歌」ならぬ「よっかからせてもらう歌」というのが何曲かあって、気分が落ち込んでいるときには、そこでしばらくぐったりさせてもらっています。ただ、そばにいてもらう曲。起き上がらせようとはしないで、ただいてくれる曲。『madoromi』もそういう曲だなぁと思いました。まどろんで聴いているよ。
余談ですが、『madoromi』を聴きながら夜の繁華街を歩くの、良かったです。日が暮れた新宿の歌舞伎町を歩くということがあったんです。いかにもなシチュエーションだけどねらったわけではなくて。行きは『madoromi』とのギャップを楽しんでいただけだったのですが、帰り道にぶわっとイメージが広がりました。機会があったらやってみていただきたい。
映画の主人公になったような気分になります←。
それは最後のシーン。主人公はこの曲の語り手である”彼”が亡くなったこと、あるいは二度と会えないことを知らないでいて。でも、”彼”との思い出はとても大切なものとして心に留めて支えにしていて。*8 あるいは、もう記憶ははっきりしないのだけど、あたたかい面影として残っていて。そして”彼”は、自分が死ぬこと、あるいは一緒にいられる時間が限られていることをわかっていながら、それを隠して主人公を支えていた。その後二人は別々の道を。主人公は、”彼”との記憶をそっと胸に、都会の喧騒の中で現実に向かって一人強く生きている。…そんなちょっとビターな映画。(我ながらなんてよくわからん説明。)
『madoromi』が似合うシチュエーション選手権があったら、海も間違いない。海に行く機会があったら聴いてみたいです。
と、いう訳で、どっこも逃せないです。『LPS』は。初回AのMVも、初回BのRepresentも、通常版の『madoromi』も。MVメイキングもカラオケも書ききれなかったけど、発見がある。
『LPS』は全方位肯定*9。全てが『LPS』というシングルの性格を形作っていると感じました。個別でももちろん良いけれど!
疲れている人には特に聴いてみてほしい。こうやって肯定されると、逆に「あぁがんばりたいなぁ」なんて思ってしまう。甘やかされてるなぁって。安心してぐっすり眠って、「じゃぁ、そろそろ行こうかなぁ」ってゆっくり歩き出せる気がします。
そして最後に。ちょっと「やべーヤツ」になります。*10
私自身はこのやさしさに値する人間だろうかと考えてしまいました。
私はこんなにあふれるやさしさを享受できるような人間じゃないなぁって。
これは彼らの自己実現であって、ただありがたくそれに与れば良いんだって言えばそれはそうかもしれない。でも今回の愛はとてもとてもやさしくて。やさしさのミストで包まれているようで、どこで息を吸えばいいのかわからなくなるくらいなものだから、いたたまれなくなるのです。『NEVERLAND』のソロでぶつけられた愛とも、また違う感覚。
あと、こうしたやさしさをNEWS自身はもらってるかな?って。小山さんのこととか、心配になるよ。ってなんだか、痛い気持ちが発生しました。私に心配されるような、やわな人たちじゃないってわかってはいるけど。
私はちゃんとした「ファン」じゃないから、彼らに返すとかっていう意識も乏しいし、今後もそうだと思う。関わり方にだって波があるし、たぶん変わってもいく。
それでも、今は彼らに伝えたいなぁ。
素敵な曲をありがとう。
あとね、ライブに行きたいです!←
*1:映像撮っていなかったので、いくつかのブログで確認させていただきました!こんな素敵なページもあったんですね。→第10回 吹奏楽部「24時間テレビ」武道館で演奏 – 宮城県石巻好文館高等学校 もちろん、石巻好文館高等学校吹奏楽部の皆さんと松本さんの挑戦が素晴らしかったことは言うまでもありません。
*2:『anone』要素を入れてみた。
*3:あと、Hacchin' Mayaさん作詞の『Wake Up』は「ため息で始まる 今日という連続」でスタートするんですね。ため息で始まって、ため息で幕降りるって、どんだけ「ため息」が好きなんだ、と。(違う)
*4:歩くワンカットMVとしてぱっと思い出したのは嵐の『復活LOVE』。(見直したら全然ワンカットじゃなかったけど汗)比較してみると、アプローチの違いがわかりやすかったです。いやーメイキングがおもしろいw
*5:by『逃げるは恥だが役に立つ』の風見さん
*6:『愛の賛歌』に重なるのはすごくわかる。『愛の賛歌』くらい有名な曲であれば、本歌取り的なことなのかな。ちょうど『越路吹雪物語』も放送中だしね!
*7:編曲のトオミヨウさん、土岐麻子さんの曲も手がけているのですね。なんだかうれしい。Cymbals世代で、その頃からたまに聴かせてもらっているので。
*8:あかん、また『anone』が。
*9:『全方位全肯定』はGOING UNDER GROUNDのライブイベントの名称。(急にぶっこんだ。)キセルとミツメとのライブを再調整してもらえるとうれしいなぁ。でもって、彼らまで今年がCDデビュー20周年って。『かよわきエナジー』はMDに入れて何度も聴いた。自分の年代を感じる(汗)